セントラルロビーに足を踏み入れるなり、無言でずかずかと大股で近寄ってきた『オリジン』に腕を掴まれた――――思いっきり。
「……ッ! 何しやがる……」
「ボッシュ、こっちへ」
 顔ばっかりはにっこりとしたリュウのものだ。
 そうしてずるずると、奥へと引き摺られていく。
 ニーナはぽかんとしたまま突っ立っていた。
 ボッシュは投げやりな顔で、彼女に上を指し示した。部屋に戻ってろ。
「おい、痛え。離せ」
「うるせえ、このまま殺されないだけありがたく思いやがれ」
 リュウの姿を保ったまま、そいつはぼそぼそとボッシュにだけ聞き取れるくらいの小声で言った。
 階段を上りきり、一般人の視線から離れ、ニーナから離れて、そうするとそいつ……アジーンは、乱暴にボッシュを壁に叩き付けて、胸倉を掴んだ。
「……何しに来たの、人間」
 ボッシュよりも小柄な身体がやるのだ、迫力もなにもあったものではないが、そいつは間違いなくドラゴンなのだった。
 みしっと肋骨が軋んで、ボッシュは顔を顰めた。
「……コレ以上、オマエリュウに何しようっての?」
 アジ―ンは目を真っ赤に燃え上がらせ、あからさまな怒りを映していた。
「……オマエのせいだ。オマエが捨ててくから、リュウが……!」
「待て。リュウがどうしたんだ、化け物!」
 コートの襟を掴み返して、鋭くボッシュはアジーンに訊いた。
 しばし睨み合い、そしてふっと力を抜いたのは、アジーンが先だった。
「もう遅いよ……オマエが帰ってきたって、何の意味もない……」
 アジーンはへたっと床に座り込み、リュウが、と泣きそうな声を出した。
「リュウが死んじゃった」
「な……ッ?!」
「ココロが、死んじゃった……こんな日が、いつかは来るって思ってたけど、早過ぎるよ……」
「オイ待て、どういうことだ?!」
 ボッシュはアジーンの胸倉を掴み上げて、顔を突き合せた。
「リュウはどこだ。オマエが生きてるんだろ?! ならあいつは生きてる、絶対だ。そうだろ?」
「…………」
 アジーンは虚ろな目で答えず、ボッシュの後ろを緩慢に見ていた。
 ボッシュは気付いて、振り向いた――――そこにはニーナがいた。
 彼女は真っ青になって、なんだろうこれと純粋な疑問を抱いた、どうしよう、という顔をしていた。
「……あの、リュウ? なにそれ、あの、そこにいるよね……」
 彼女にとっては、アジーンもリュウの半分だった。
 ボッシュは静かに、アジーンに訊いた。
「……リュウはどこだ?」








 メディカルセンター最上階、そこに見慣れた顔があった。
 久方ぶりに見るその姿は相変わらずで、どこも変わりなく、ただ静かに寝入っていた。
 規則正しく呼吸をしているのは、時折微かに胸が上下することで知れた。
「リュウ!」
 ニ―ナが叫んで、ベッドに横たわり、いくつもの管に繋がれているリュウの胸に抱き付いた。
「リュウ! リュウ! どうしたの?! なにがあったの、痛い? ひどいことされた?!」
 だが、リュウはニーナに応えなかった。
 ありえないことだ、彼女を溺愛しいつもにっこりと笑って、なあに、ニーナ、と返事をするはずのリュウは、ただぴくりとも動かずに、瞼を閉じたまま、眠っているように見えた。
 ボッシュは、いつかそれと似たようなリュウの身体を前にしたことがあった。
 心臓こそ動いてはいるようだったが、それはあの数ヶ月の間、完全な死が彼の身体に浸蝕していた頃と同じような感触がした。
「……ニーナ」
「ボッシュ! どうしよ、リュウまた死んじゃう?! ねえ、やだ、ねえ……!」
 完全に混乱して、ニーナはぼろぼろと泣き出してしまった。
 ボッシュがリュウを泣かせるのとおんなじような具合で、リュウはニーナを泣かせているように見えた。
 いつもそうだ、大体リュウはボッシュが少し目を離すと、こういうふうにろくでもない姿を晒す。
 いつのまにか化け物になっていたり、いつのまにかオリジンになっていたり、いつのまにか、死んでしまったり。
 ほんとに、ろくでもない奴だ。
「ニーナ。部屋を出ろ」
「……! や、やだあ! リュ、いっしょに……」
「出ていけ。部屋に帰ってろ。……ふたりに、してくれ」
 ボッシュは、静かにそう言った。
 彼女に懇願した。
「……頼む」
 ニーナはしばらくぼんやりとボッシュの顔を見上げていたが、やがてふらふらと立ち上がると、歯を食いしばってぎゅっと目を瞑り、涙を抑え、何度も頷いた。
「……ぼ、しゅう、かわい、そう……」
「…………」
「へ、や、あとで……」
 後で来るから、と言いたいのだろうが、最後まで言葉にすることができずに、ニーナは泣き顔を隠すように腕で顔を覆い、出て行った。
 小さく軽い足音が遠くへ行ってしまった。
 ボッシュはそうなって、はじめてまともにリュウを観察した。
 少しやつれたのは、補給を点滴のみに頼っているせいだろうか?
「……ボッシュ。リュウ、起きないんだ」
 ぼそぼそと、小さな声がした。
 それでボッシュは、ああ、この部屋にはまだあのドラゴンがいたんだ、と思い当たった。
「どこにも、いないんだ。姿が見えない。呼んでも応えなくて、手も繋いでくれない……」
 ふらふらとリュウの元へ寄り、アジーンはリュウの手を取って、ぎゅっと額をリュウの胸に押し付けた。
「リュウ、リュウ……オマエの、せいだ、ボッシュ……」
「……ああ」
 ボッシュは頷いた。
 まだ呆然としている。
 これは現実だろうか?
 だとしたら、なんてひどいものだ。
 アジーンの身体はゆっくりと光へと変わっていき、赤く染まり、リュウへと吸い込まれていった。
「リュウに謝れ。俺は、ちょっと、寝る……」
 そうしてアジーンはふっと顔を上げ、妙だというふうに眉を顰めた。
「ボッシュ……チェトレは?」
「放置」
「……やっぱり俺、オマエがだいっ嫌いだよ」
「ニーナにも言われた」
 肩を竦めてそっけない顔のまま、それは精一杯の強がりだったが、頷いてボッシュはアジーンがリュウの中へ溶けて消えて行くのをじっと見ていた。








 ふたりきりになると、静寂が訪れた。
「……リュウ?」
 呼ぶ声は少し震えていて、それを自覚して、ボッシュは苦笑した。
 まったく、らしくない……だが、らしくって何だ?
 いつから皮肉ぶるようになったのか、覚えていない。
 確か子供の頃は、もう少し器用にやれていたような気がする。
 少なくとも、リュウを泣かせやしなかった。
 ボッシュは少し気後れしながら、リュウに触れた。
 頬を触って、その温かさを、柔らかい身体を確めた。
 リュウはただ眠っているだけのように見えた。
 もしかしたら、アジーンが謀ったのかもしれない。
 リュウを苛めてばかりいるボッシュに、一泡吹かせてやろうと――――もしそうなら、どんなに良かったか。
 だが、ボッシュは理解していた。
 リュウは眠っているのではなかった。
 ただ虚ろに、身体がそこにあるだけだ。
「……なんでこんなふうに、なるんだよ」
 なにもかもが、リュウに関してのことが、何一つ上手くいかないことにボッシュは苛立った。
 昔からそうだった。
 本当に何一つ上手くいかない。上手くやれない。
 顔を見れば泣かせてばっかりだ。
 もうずっとそばにいて、抱き締めて、優しくして、オマエが好きだと言ってやろうとした矢先、リュウは死んでしまった。
 リュウは、ひどい痛みを――――最後まで、どうしようもないくらいの胸の痛みを抱えて、壊れてしまったのだろうか。
 一言でもボッシュを責めただろうか。
 もしそうならどんなに良かっただろう、だがボッシュは知っていた。
 きっとリュウは最後の瞬間、ただ静かにボッシュにごめんなさいとだけ言って、目を閉じたに違いないのだ。
「リュウ、俺……オマエに、好きだって、言いにきたんだけど」
 リュウの手を取って、頬に当てた。
 リュウの手のひらは冷たい。
 はじめにそれに気がついたのは、リュウだった。
 ボッシュの体温はあったかい、絶対おれの方が高いと思ってた――――ボッシュって体温低そうだもん。
 そう言うリュウの声を、その口調もなにもかもを再現して、ボッシュは思い出すことができる。
 ボッシュはこう答えたはずだ。人のこと冷血人間みたいに言うのかよ、ローディが。
 リュウはこう答えたはずだ。だってすごく寝汚いんだもん。また遅刻だ。
 それは何も考えずに、ボッシュがリュウの手を引いていられた時分の出来事だった。
 何も考えずに済んだ。
 リュウはローディで、間違ってもボッシュを置いてどこか先へ歩いて行ってしまうことはなかった。
 彼は一人で歩けやしないのだ――――手を引いてやらないとどこへも行けない。
 その手を離すと、きっと座り込んで泣き出してしまうだろう。
 彼はボッシュに庇護されていた。
 間違っても一人きりで歩いて行ってしまうことはなかった。――――昔の話だ。
「……オマエ最近、強くなっちまって、勝手にどっか行っちまったりするから……俺はオマエの手を引いて歩けるくらい、強くなきゃならない。そうだろう?」
 リュウは返事をしない。
 ただ目を閉じて、小さな呼吸を繰り返すだけだ。
「なに、また死んでんのかよ……いい加減にしろよ。また生き返ってくるだろう? オマエ丈夫なだけが取り柄なんだからさ。返事、しろよ……俺は泣いてなんか、やらないからな」
 ただ焦燥が訪れた。
 リュウは目を覚まさない。








◇◆◇◆◇








『とうさま、まって、とうさま……』








 子供が泣いている。
 どこか遠くの方で聞こえて、ボッシュは舌打ちをした。
 うるさい。そんな場合じゃない。
 リュウが目を覚まさないのだ。
 また以前そうあったような絶望が、ボッシュに訪れた。
 これから1000年死んだリュウを愛して過ごすのだと、それは冗談みたいな悪夢だと、そんなことはもう二度とあるはずもないのだと思っていられた日々は、それこそ夢であるように思えた。
 リュウが永遠の眠りから目を覚まして、こんな身体になって、そしてボッシュに笑い掛けるようになったことが。
 これからやっと、ずっと一緒に生きていけるのだと思った。
 もうリュウしか残っていなかった。
 彼がボッシュだけを見るのなら、望みは何だって叶えてやろう。
 1000年憎むことだってかまわない。
 向けられるものならなんでもいい。
 それが恐怖でも諦めでも寂しさでも、その中にあってなお純粋な慕情でも。
 ふいに膝に小さな手が乗って、ボッシュはびくっと緊張した。
「なんだ?」
 そこには緑色の値が張りそうな服を着せられた金髪の子供がいた。
 その鮮やかなグリーンの瞳でもって、泣きながらボッシュを見上げていた。
 それは幼い時期の自分の姿だった――――ボッシュは少し訝しんだ。
 自分はこんなにも明るい瞳の色をしていたろうか?
 もっと灰色がかって、くすんでしまってはいなかったろうか。
 鮮やかな目をした子供のボッシュは、小さな顔を絶望と懇願でぐちゃぐちゃにして泣いていた。
『とうさま……とうさまあ、こっち、見てえ……』
――――ッ!!」
 ぎくっとした。
 子供はいつのまにかリュウの姿に変わっていた。
 まったくおんなじ表情でもって、リュウは泣いていた。
『……好きだよ、ボッシュ……見てくれなくてもいい、ずっと、そばに……』
 リュウの表情には、諦めの色が見えた。
 こんなすごい人が、おれのことなんか好きになってくれるわけがない――――リュウはずうっとそんなふうに想いながら、ボッシュの隣にいたのだろうか?
『そばにいさせて……置いてかないで。おれ、がんばる。なんでもするから……』
 リュウは泣いていた。
 ボッシュはおずおずと手を伸ばしたが、彼に触れることはできなかった。
 そう、彼はもう、本当はどこにもいないのだ。
『す、棄てないで。ほんとにほんとに、おれボッシュがいなくなったら、もう……』
 そうして顔を上げ、リュウはいつもの困ったような笑顔で微笑んだ。
 いいんだ、もうほんとは知ってるんだ、きっと生涯愛してなんてもらえるわけがない――――そういう顔だ。
『……せめて、最後は、殺して。きみに終わらせて欲しいんだ』
 リュウはそうして、静かな顔でボッシュに懇願した。
――――そのくらいは許して、ボッシュ』
 リュウは言った。
 そしてまたいつものように、諦めの笑顔でこう言うのだった。ごめんね。
 リュウが可哀想だった。
 普段ローディを嘲笑するものとは全く種類の違う、愛しさをない混ぜにした憐れみがボッシュに訪れた。
 そうして彼の細い首に手を掛けてやると、リュウはとても安堵したふうに、泣き笑いの笑顔でもって、ボッシュに言った。
『ありがとう。……ごめんね、ボッシュ』
 また、泣いてる。








◇◆◇◆◇








 はっとして、ボッシュは我に返った。
 慌ててリュウの首筋に掛けていた腕を離して、呆然と手のひらを見る――――白昼夢でも見ていたのだろうか?
 リュウは変わらずベッドに横たわって目を閉じていた。
 目を覚ましてボッシュに泣き付いたりはしていなかったし、殺してくれと懇願することもなかった。
(俺は、リュウを……)
 獣剣で貫き、首を締め、結局はリュウを最後まで傷付けることしかできない手のひらだ。
 リュウの首筋には、指のかたちをした痣ができていた。
(リュウを……この手で)
 いつか、戸惑いなくそうすることができただろう時分を思い出した。
 ボッシュの前に立ち、道を塞ぐリュウなど死ぬべきだ。
 それは当たり前のことであり、リュウもきっとそれを知っている、受け入れるに違いない。
 ボッシュはそう思っていた。
 リュウが裏切ったのだと思っていた。
 だが、今同じふうにできるかと言えば、そうではなかった。
 確かにリュウを殺し、時間を止めて、最後の絶望の表情を――――もしくは安堵のそれをボッシュ一人きりのものにできたなら、それは恍惚には違いなかった。
 だが、今はただ焦燥するばかりだ。
 もしかしたら、そうしなければ、リュウはもっとも簡単で、ごくシンプルなかたちでボッシュを愛してくれるかもしれないのだ。
 もしかしたらリュウは、世界でたったひとりきり、無条件でボッシュを愛してくれるものになり得るかもしれない。
 余計なものなど何も見ずに。
 だが、リュウは死んでしまった。
 小さな子供の頃の自分は泣いていた。
 なのにボッシュは泣くことすらできないでいた。
 どうすればいいだろう。
 こういう時は泣くべきだ。泣いてやるべきだ。
 そうしたら、優しいリュウは目を開けて、こう言ってくれるかもしれない。
 泣かないで、ボッシュ。おれはきみが好きだよ。
「リュウ……」
 リュウを抱き起こし、抱きしめた。
 その身体はあたたかかった。
「俺、オマエが好きだ。ずっとそうだったんだ。なのに、なんで上手くでくきねえんだよ」
 愛しているはずだ。
 だが、リュウを泣かせてばかりだ。
 傷付けてばかりだ。
 いつもリュウの手を振り払ってばかりだ。
 本当にずうっと繋いでどこまでも連れて行ってやれたら、どんなに良かっただろう。
「……手、繋ごうぜ、リュウ」
 ぐったりしたリュウの手を掴んで、繋いだ。
 こんな物みたいになってしまったリュウでも、まだ安堵はしてくれているのだろうか。
 震えながらリュウの手に額を擦りつけて、ボッシュはようやく目に涙が溢れてきたことに気がついた。
 やっとだ。
 リュウがこんなになるまで、ボッシュは泣けなかった。
 それはひどいことなんだろうか、とぼんやり思った。
「怖いよ、リュウ……。俺が、父さまみたいになっていくよ。俺を、母さまを、リュウを――――父さまみたいに俺が、リュウ……!」
 母を捨て、ボッシュを見ようともしなかったあの父と、いつのまにかそっくり同じふうにリュウを苛んでいた。
 まっすぐ見てやることもなく、そうして棄て、気まぐれに手を離しては繋ぎ――――リュウが泣くわけだ。
「ずうっと……もう離さない。手を、振り払わない。オマエを守る。俺が……」
 もう泣かさない。
 あんなふうに、困ったような変な笑い方なんてさせない。
 バカみたいに脳天気に笑っていればいい。
「オマエがそうして欲しいなら、俺、1000年だってずうっとオマエを憎んでやるよ。ずうっと、オマエのことばっかり考えて、ずうっとさ。でも……」
 くしゃっと顔を歪めて、まるで幼児みたいなみっともなさで、ボッシュは泣いた。
 リュウが見ていないことだけが救いだ――――いや、リュウならボッシュを抱きしめて、黙って頭を撫でてくれるだろうか。
 昔、もう顔も覚えていない母がそうしてくれたように、優しいリュウは。
 だが、リュウが望むのは――――
「憎むのは、もういやだ。俺、いやだ……無理だよ……」
 ボッシュはリュウに縋り付き、懇願した。
 ――――もうそんなこと言うなよ。
 目を開けろ。起きて、だいじょうぶだよ、なんて言いながら微笑めばいい。
 ボッシュが見惚れるくらい綺麗に笑えばいい。
 そんなものだ。リュウはそうするべきだ。
「好きだ、リュウ」
 どうしてこう言ってやれるのは、いつもリュウにひどいことをしてやった後ばかりなのだろう。
「好きだ……」
 それも、リュウが答えることがない時ばかりなのだろう。
 リュウには聞こえないし、届かない。
 だから彼は、ボッシュに愛されていることを知らない。
 ボッシュがリュウをどれだけ好きかなんてことは、考えもつかない。
「1000年ずうっと、オマエのことが好きだ……」
 それは確かに憎しみに染まっていた。
 だが、何よりも純粋な愛情であり、慕情であり、支配欲であり、ただ好きだからそばにいてずっと身体に触っていたいというシンプルな欲望だった。
 ボッシュはぎゅうっとリュウの手を握った。
 握り返されることはなかった。
 リュウの手は力なくだらりと垂れたままで、泣いているボッシュを見ても頭を撫でてくれることもなかった。
「手を――――
 抱き寄せて、抱きしめて、だがリュウがそれを知ることはない。
 もどかしかった。
 ちゃんと愛していると言ってやって、リュウを安心させてやりたかった。
 絶対に棄てたりなんかしない。
 生涯愛して、守ってやる。誰にも触らせない。
 そう言ってやりたかった。
「手を……はなさ、ないでくれ……」
 だがリュウは目を覚まさない。
 ボッシュがどれだけ懇願しても、もう彼が目を開くことはなかった。














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