「ボ、ボ、ボッシュ? どうしたの、ねえ……」
 乱暴に手を引いて、リュウをシェルターに連れ込んだ。
 少し怯えている。
 今までボッシュにこんなに乱雑に扱われたことは、「彼」にはなかったろう。
 リュウは眉尻を下げ、不安そうにボッシュを見上げた。
「お、おれ、なんか悪いことした? あ、勝手に出てっちゃったから……怒ってる? 嫌いに、なる……?」
 泣きそうな顔でリュウが言った。
 ボッシュは答えず、リュウを押し倒した。
 素肌に一枚きり引っ掛かっているシャツをはだけ、剥がし、裸にして、リュウの脚を開いた。
「……え?! い、あの、ボッシュ、ぼ、しゅ……――――っ!!」
 まだなんにもわかってないリュウの股の間に、育った性器を突っ込んで、掻き回した。
 慣らしてやらなかったせいで、ひどくきつい。
 ぎちぎち軋んで、リュウの身体を割った。
――――あああぁっ?! や、やああぁっ!!」
 リュウが泣き叫んだ。
 小さな身体がじたばたと必死にもがいたが、抑え付けてやるのにそう苦労はしなかった。
「い、いた……いたい、いた……ぼ、しゅ、やめて……!!」
 好きに腰を打ち付けてやった。
 リュウの悲鳴が、まるで断末魔のようなそれが響き、狂暴な感情が容易くボッシュを支配した。
 元より、どうにもならない衝動だった。
 リュウを無茶苦茶にしてやりたい。
 壊して、ひどくしてやりたい……そしてボッシュの思い通りにしてやりたい。
 愛して憎んで、どうにかなってしまいそうな感情だ。
 過ぎ去ったはずのものが、感情の中に蘇り、暴発して――――そして、リュウが泣いていた。
 嗚咽を零して、何度もごめんなさいごめんなさいと言いながら泣きじゃくっていた。
 そして抵抗もなくなった。
 リュウは呆然とした瞳を大きく見開いて、反応もないまま、ただ虚ろにそうしていた。
 その表情に、ボッシュは見覚えがあった。
「……ぼ、しゅ? なん……で……?」
 それは絶望と言った。
「……オマエが悪いんだ。オマエが……」
 うわごとのように、ボッシュは繰り返した。
「オマエ、俺のものなのに、なんで他のものなんか見ようとするんだ……?!」
 純粋な怒りがボッシュに訪れた。
 リュウは怯えきっていた。恐怖していた。
 いつか見たあの眼差しだ。
 もう二度とこんな目はさせないと決めたあの顔で、リュウは泣いていた。







 嗚咽が聞こえる。
 本当にいつまで経ってもリュウは泣いてばかりだ。
 ボッシュはいつまで経っても彼を泣かせてやることしかできない。
 暗闇の中で、腕の中で、リュウはボッシュに縋りついて泣いている。
 そう、いつもそうだった。
 どんなにひどくしてやっても、リュウはボッシュに縋りついて懇願するのだった。
 手を離さないでと。







◇◆◇◆◇







 こんなに怒ってるボッシュを、リュウは初めて見た。
 どんなにひどいことをしたのだろうか。
 謝っても謝ってもボッシュは赦してくれなくて、死んでしまいそうなくらい痛く、ひどくされた。
 あんまりきつく突かれて、お腹の中が壊れてしまいそうなくらい。
 リュウがいくら泣き喚いてやめてボッシュと懇願しても聞いてはくれなかった。
 いつもの「きもちいこと」は、ボッシュが優しくないというそれだけのことで、すごく辛いことに変わってしまった。
 あのやさしいボッシュがこんなふうになるなんて、本当に、リュウはどんなにひどいことをしてしまったのだろうか?







「……ぼ、しゅ?」
 





 いつもよりぎゅっときつく抱かれているから、少し息苦しかった。
 でも、動くとボッシュがすごく不機嫌な顔をする。
 リュウはじっとしているしかなかった。
「……き、きらいになっちゃった?」
 リュウはまだ小さな嗚咽を零しながら、キライになっちゃやだ、と懇願した。
「ね、おれ、なんでもするよ。言うこと、ちゃんと聞くし……遠くに行っちゃダメって約束、もう破ったりしない。だ、だから、好きになって……」
 ボッシュはなんにも答えてくれない。
 リュウはまた悲しくなってしまって、ぎゅうっとボッシュに縋り付いた。
「い、痛くしないで……すきって言って、ボッシュう……」
 ごめんなさい、とリュウはまた謝った。
 でもボッシュは返事もしてくれなくて、そうしてリュウを放ったまま、眠ってしまった。
「ボッシュ……ボッシュ、ぼ、しゅう……」
 起き上がってゆさゆさと身体を揺らしても、ボッシュは知らん振りをして寝たままだ。
 リュウはぺたんと座り込んで、泣いた。
 しばらく、そうしていた。






 どうすれば赦してもらえるだろうか――――仲直りできるだろうか?
 このままではリュウはひとりぼっちだ。
 もしボッシュに捨てられてしまったら、リュウはすぐに死んでしまうだろう。
 お腹が減って、寂しくて、ほんとにすぐに。
 世界にはリュウとボッシュのふたりきりだと思っていた。
 でもボッシュは、もしかしたらヒトのところへ行ってしまうかもしれない。
 もしかしたら、リュウたちを食べないヒトたちがいるのかもしれない。
 ボッシュはリュウを捨て、置き去りにして、そこへ行ってしまうかもしれない――――すごく寂しくて、考えるだけで死んでしまいそうだ。
「す、棄て、ないで……おれ、なんでもするから。がんばるからボッシュ、置いてか、ないで、いや……」
 なにかボッシュが喜ぶことはないだろうか。リュウは一生懸命に考えた。
 仲直りできるくらいにボッシュが嬉しいことはないだろうか。
 どうすれば置いていかれないだろうか。
 ボッシュのそばにずうっと一緒にいて、ずうっと、ずうっと手を引いていてもらえるだろうか。
 リュウが思い付いたのはまずは簡単な方法だった。
 まずは目を覚ましたボッシュに、彼が一番好きな食べ物を差し出して、ごめんなさいをしてみるのだ。
 ボッシュは甘いものが好物だった。
 青い、リュウの髪と目とおんなじ色をした甘くて青い実、あれがボッシュの好物だった。
「……ま、まってて……おれ、ボッシュに甘くておいしいの、食べさせてあげるね!」
 リュウは気後れしながら微笑んで、立ち上がって――――ふらふらして、またぺたっと座り込んだ。
「うー……い、いた……」
 ボッシュに乱暴されたせいで、足が立たない。
 だが、よろめきながらもリュウは立ち上がって、せいいっぱいにっこりした。
「……いってくるね!」
 眠ったままのボッシュは、なんにも答えてくれなかった。












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